先週からシンガポールを経由してタイ、プーケットへ。タイは今、深刻な不況に見舞われていて、“微笑みの国”といわれながら市井の人々の表情はけっして明るくはない。そんな中、欧米人に人気のリゾート地として独自の地歩を獲得したプーケット島は、外貨獲得のため急ピッチで商業化が進んでおり、世界各国の文化を取り入れながら発展を遂げている。

アジア有数の仏教国(実際はかなりの割合でイスラム教徒なのだけど)でもあるので、街のちょっとした一角や自然の中にも霊性が溶け込み、街の喧騒を少し離れるだけで極彩色の原風景と信仰の痕跡を見つけることができる。南国特有のレイドバックした緩い雰囲気は場所にかぎらず同様だが、街ひとつとっても“静と動”の落差が激しい。
とくにヨーロッパ系の若い旅行者やゲイで賑わうパトンビーチの歓楽街は、レイブカルチャーやボヘミアズムとも融合した一種異様な雰囲気を放つ。それこそ欧州のロスジェネ世代の逃避先がイビサからプーケットに置き換わっただけの話なのだ。ASEANが経済成長を遂げるその実、欧米人のガス抜きのためにアジアが消費されている一面をかいま見た気がした。見方を変えれば、そうした淡く浅はかな欲望をマネーに換えてやるという、したたかな生命力の強さがアジアらしいと云えるかもしれない。
その証左が島中に張り巡らされた夥しい数の電線にも見てとれる。滞在者・移住者向けにありとあらゆるケーブルテレビが進出した結果、電線がたわむほどの束となって到るところで垂れ下がっているのだ(実際、宿泊先でテレビをザッピングすると50局以上のチャンネルが存在した…)。それもまた、異様な光景として通過者の目に映る。
エグゼクティブが集うフランスの高級リゾート地での惨劇を描き、文明が人を虐殺へと駆り立てることを揶揄した、巨匠J.G.バラードの名作『スーパー・カンヌ』を思い起こさずにはいられなかった。

- 作者: J.G.バラード,J.G. Ballard,小山太一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/11/01
- メディア: 単行本
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そんな、ある種の狂気と静謐な土着の信仰が共存した島。とくに意識して撮っているわけでもないのだが、なぜか心惹かれるものがそこにある。それは一般の観光客が見向きもせず、ただ通り過ぎていく場所に。なんでもない光景のように思えて、そこはたしかに何かの気配を感じさせるのだ。一体、俺の目に何が映り込んでいるのか。写真論の実践編として、写真の謎解きとともに視点をお楽しみいただければと思う。
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