この世界が消えたあとの未来のつくりかた

予測不能な社会を生き抜く知的サバイバル術

写真集『20』/川田喜久治

現実とも幻想とも判断のつかない虚構の世界。大疫病時代の静寂と呻吟、増殖/積層する都市文脈、歪形するイメージ…。日本を代表する造本家・町口覚が写真集を出版・流通させることに挑戦するために立ち上げた「bookshop M」の写真集レーベル「M」から、2021年初に突如リリースされたのは、個人的にも敬愛してやまない写真家・川田喜久治による1冊だった。

 

齢87を数え大御所ともいえる立場にいながらにして、川田は現役写真家としてInstagramという最新テクノロジーを使いこなし、今なお写真を発表し続けている。彼のインスタ・アカウントについては、以前の記事でも紹介させてもらった。

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川田喜久治は東松照明、奈良原一高、細江英公らも在籍した伝説の写真家集団VIVOの創設メンバーであり、60年以上のキャリアを誇る写真家だ。敗戦という歴史の記憶を記号化し、メタファーに満ちた作品「地図」や、天体気象現象と地上の出来事を混成した黙示録的な「ラスト・コスモロジー」、都市に現れる現象をテーマにした「Last Things」など、意欲的な作品を発表し続け、日本のみならず世界でも高い評価を受けている。

 

その作風は形而上的ともいえるほどに観念的で、観る者に解釈を委ねる難解な写真が多い。彼の作品の数々は、感情を排して撮られた無機質なイメージに、多重露光などを駆使し、色や質感を重ねて撮ることで不均衡な意味づけが為され、なんだか不思議な違和感を感じずにはいられない。一見すると脈絡がなく決して心地のいい読了感は与えられないのだが、そこにはどこか深遠で静謐な「祈り」にも似た、現代日本のアイデンティティを揺さぶる神話的なナラトロジーが紡がれているのだ。

 

そう、川田喜久治はまさに日本のアイデンティティを描写しているのだ!だからこそ川田の写真は僕のような、アイデンティティを喪失した者、しかけた者、欠落した者の心象風景に深く突き刺さる。写真の文学性を否定した故・中平卓馬のような鋭利さを持っていながら、あくまで詩情溢れるリリシズムに貫かれた独特な世界認識が、どぎついまでの色彩によって形作られている。

 

あくまで「M」シリーズの定型化されたフォーマットながら、こってり墨が乗り、鮮やかなコントラストに彩られた上質な印刷は、アバンギャルドな写真表現を追求し続ける御大・川田のイメージが跳躍し、唯一無二なものになっている。意外なことに今回のブックデザインを手掛けたのは町口覚ではなく、実弟である町口景である。その町口景を交えて編集過程を振り返った動画が、ありがたいことにYouTubeに投稿されている。

 

youtu.be

 

とはいえ、話題性に事欠かないこの写真集の性格を作家本人の言葉が一番よく表しており、巻末に掲載された次のようなコメントによって、大きくパラダイムが変わったこの混迷の時代の、「見えない物語」のラストは飾られている。

 

30のカットで編まれたものには、始まりの感覚もなければ終わりの嗅覚もない。リズムの強弱もなければ、色や形の韻も踏まず、イメージは混交しながら粘菌のように増殖してゆく。突然の異時同図、影のスクロール、さまざまな幻影が気ままに地を這い宙に浮いたままだ。そこに見えない都市の蜃気楼が揺れる。

 

20年から続くプレイグタイムのなか、イメージの進行はグロテスクな寓話に近づいたりする時もあるが、新しいストーリーを生むにはほど遠い。さまざまなノイズとともに、いつ失速するかも知 れない想像の淵をさまよっているのだ。

(中略)

これからも続けたい。まだ空が明るく、目のまえの影が消えないうちに......。

 

 

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この写真集は限定700部ながら、以下のサイトなどで購入することができる。

www.pgi.ac